月別アーカイブ: 2015年2月

自作VFD電卓 その3

クロック回路の設計


TMS1030/1031 にはクロックドライバが無いので、
1 ピン(CK) にクロック信号を入力する必要があります。
周波数は 100k – 200kHz ほどで、14V p-p (Vdd-Vgg) の振幅が必要です。

当時の製品では、Tr 2石のマルチバイブレータでクロックを生成させているケースが多いのですが、
部品点数と消費電流が気になるので、今回は CMOS インバータによる発振回路を作ります。
こういう高電圧系の応用に CMOS の 4000B / 4500B は便利です。

 
4584B (シュミットトリガインバータ) を使った発振回路は、図のようになります。
4069UB を使うことも考えましたが、その場合貫通電流の影響で、
消費電流が 図の回路に比べて 10 倍ほどになってしまいます。
出力の 1k は保護用で、接続先のピン配置がまだ確実ではないので入れたのですが、
そもそも 4584 の出力 Z がそれくらいあるので、無くても同じかもしれないです。


ここまでの基板写真です。

ドライバ回路の設計

この IC にはディスプレイのドライバ回路もなく、単にオープンドレイン出力となっているだけで、
定格などは資料が無いため不明です。
VFD を駆動するために、外部 Tr によるドライバ回路が必要です。


これは、上図のような単純な回路で十分です。
図中 グランド記号で示されている電位は、VFD のカットオフ電圧なので、
Vgg より低い電圧です。
2SC2021 は ROHM の汎用トランジスタですが、外形が FTR なので高密度実装が可能です。


ここまでの基板写真です。
抵抗などはチップ部品を使っているので、部品面に実装してあります。

IC の生存確認

ここまででの実装で、もし IC が生きていれば、
少なくともプルダウンされたグリッド出力には信号が出力されるはずです。
というわけで…

動作かくにん!よかった
製造後 40 年あまりにして、IC にはじめて電源が入れられたわけです。

自作VFD電卓 その2

電源回路の設計

TMS1030 を使った VFD 電卓の製作です。
乾電池2本で動作させるための電源回路を設計します。
まず、動作に必要な電位レベルを書き出してみます。

VFD の駆動に必要な電圧は、アノード電圧 Va, グリッド電圧 Vg,
フィラメント電圧 Vf の 3 種類です。
(前回はフィラメントを VFD 付属資料に引っ張られてヒーターと呼んでいました)
通常 Va = Vg として駆動、その値は 12V – 30V ほどです。
大型の VFD になると、フィラメントは交流で駆動させる必要がありますが、
今回のものは直流でも問題なさそうです。


今回使用する VFD (ITRON DP95A4)は、定格等詳細は不明なので、
実験によりこれらの値を推測する必要があります。

フィラメント電圧は、大きすぎると VFD の寿命が極端に縮まってしまいます。
かといって、小さすぎると VFD が点灯しません。
フィラメント(発光部分の手前にある細い電線)自体が発光しないで、
VFD の アノード、グリッドに電位を与えた上でセグメントが発光するような値にセットします。
今回の VFD では 1.6-1.8V 程度が丁度よさそうです。

定電圧駆動が望ましいのですが、乾電池 2 本動作なので、1.9V 動作まで電圧低下をみると、
レギュレータの設計がちょっと面倒です。
簡単ですが、アクティブ駆動は見送り、抵抗で電圧制限することにします。
50Ω 程度の抵抗と直列に繋ぐことで、丁度良い電圧幅に落ち着きました。

アノード、グリッド電圧は、十分に発光する適当な電圧に設定します。
じつは最初は経験から 26V で駆動させていたのですが、あらためて実験すると、
もう少し低い値でもよさそうなので、今回は 18V としました。
この高電圧は、スイッチングコンバータで昇圧させて生成します。


TMS 0130 の定格は 14V で、ドライブ段は pMOS のオープンドレインとわかっているので、
Vss を Va, Vg とする必要があります。
この電源電圧(Vgg, Vdd)は、VFD 用に生成した高電圧から降圧させて作ります。
あとで アノード、グリッド電圧を上げることを考えると、リニアコンバータより、
効率の良いスイッチングコンバータとした方が都合よさそうです。




設計した電源回路の構成図と回路図、写真を示します。
プローブをひっかけるために方々配線が伸びているので、
あまり綺麗じゃないですね。

こういう多出力の電源システムを構成するには、多巻線トランスを介したコンバータに
するほうが簡便で、商品化された大抵の電卓でもそうなっています。
しかしながら、手元に適当なコアがないので、通常のインダクタで設計できる
ブースト型・バック型の DC-DC コンバータとしました。
2系統のスイッチング・フィードバック経路が必要になるので、専用 IC を使わずに、
制御はマイコン (ATtiny13A) にさせることにします。

この回路で 初段 2.0V -> 26V (13倍)@ 35mA(Vss-Vgg 間) の出力が可能です。

ただこの条件は極端な duty 比率となるため、ブーストコンバータとしては
かなり厳しい条件になります。
この後の実験では、Vss-GND は 18V で行っており、
上記回路図の回路定数もそのようになっています。

次回につづく

自作VFD電卓 その1

キーアイテムが揃ったので、今回からは電卓を作ってみようと思います。


写真は Texas Instruments のTMS0130NC で、1973年 21 週製造のワンチップ電卓 LSI です。
インターネット上の情報を集めてみると、これは松下製の電卓に使われていたもののようです。
ピンは酸化してしまっていますが、未使用の状態で製造から 40 年以上経っています。
まだ動くかどうか定かではありませんが、この IC を動かしてみたいと思います。


計算結果を表示するディスプレイは、70年代らしく VFD (蛍光表示管)でいきたいと思います。
丁度良く、当時の電卓にしばしば使われていた itron 製の小型 VFD を入手できたので、
これを使用することにします。

IC についての詳しい資料はありませんが、同じシリーズの TMS0102 について
書かれたものが参考になりそうです。
この TMS0130 は TI の TMS0100 シリーズに属するもので、
端的に言えば電卓に特化された 8bit マイコンのカスタム品です。
ハードウェアは共通なので、ピン配置や電気的特性は同一であると考えられます。
テスタで IC を簡単にチェックした感じでは、この仮定は正しそうです。


ピン配置を図に示します。
pMOS なので Vss が最高電位となる点に注意が必要です。
IC の動作には Vdd 、Vgg の 2 電源が必要で、
加えて VFD のカットオフ電圧 (Vk) 、ヒータ電圧 (Vk 付近に 0.8-2.0V 程度) を用意しなければいけません。
また、オープンドレインの各出力ピンには、VFD のドライバ回路が必要です。
CK ピンに入力するためのクロック発振回路も、外付けとなります。

したがって、この IC を動作させるためには、
・電源回路
・ドライバ回路
・クロック発振回路
の設計が必要になります。

「電卓」と言うからには、電池で動作するものを作りたいです。
乾電池 2本(3V)での動作を要件として、電源回路の設計を行います。
(つづく)