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ランプ型 ADC の製作

ランプ型 (Ramp-compare) ADC  を専用 IC を使わないで作ってみました。

ランプ型 ADC 、シングルスロープ型 ADC と呼ばれることも多いかもしれませんが、これはのこぎり波とコンパレータ、カウンタで形成される最も簡単な ADC です。下図のようなブロックダイアグラムになります。

ramp_adc

設計目標は以下の通りです。精度はあまり考えないことにします。
・電源: DC +5V
・入力レンジ: 0-2V
・分解能: 1mV
・リニアリティ: 問わない
・表示器つき(LED)

ところで、積分型 ADC と比較すると、ディスクリートで組んだ場合にランプ型 ADC は以下のような特徴を持ちます。
・制御回路が簡単
・単電源で設計しやすい
・精度は出しにくい

積分型 ADC は積分回路が必要な都合上、単電源で設計しづらくなります。今回の回路では定電流回路によりのこぎり波を生成しているので、3 桁程度の精度が出ることを期待しています。

adc_circuit

上記に回路図を示します。基準クロックは近くにあった 6MHz 振動子を使用していますが、これを 450kHz くらいに変更すると消費電流をより減らすことができます。積分コンデンサにフィルムコンデンサを使用するのは言うまでもないですね。ポリプロピレンがベストですが、今回は精度にそれほどこだわらないので PET です。

TC5054P は 4桁のカウンタ IC です。カウントパルス、スタートやリセットは基準クロックの分周をそのまま使用しています。TC5054P にはカウンタ部とラッチ付きの表示部があり、コンパレータ出力のエッジを検出して、カウンタから表示部へデータの転送を行っています。

TC40H000P はアンバッファの高速タイプなので、4011B や 74HC00 では代用できないかもしれません。

TC40H000P と TC5054P は入手しづらい IC だと思います。在庫あるので欲しい方おられましたら問い合わせください。

Dscf0773

さて、作ったものが上記写真で、左側の VR は回路図にないテスト用の VR です。電源を投入すると、果たして、すんなりと動作したのでした。

Dscf0776

OL (オーバーレンジ)表示を入れ忘れたので、FS 以上の入力は表示できません。

74HC と 74HCT の内部回路の違い

74HC シリーズと 74HCT シリーズは、1980 年代に登場した Si ゲートの汎用 CMOS ロジックファミリです。
両シリーズの違いについては、データシートを見ても電気的特性の規定のみで、内部回路のどこが異なるのか記してある資料は少ないように思うので、ここに記しておきます。

まず電気的特性から見ると、両シリーズはロジックレベルが異なり、HC シリーズは入出力とも CMOS レベル (Vth ~ VDD/2)ですが、HCT シリーズは入力段を TTL レベル (Vth ~1.4V) に合わせています。
また、電源電圧範囲は HC が 2-6V、HCT が 5V ±10% と規定されています。(JEDEC 標準の場合)

さて、内部回路の違いを見ると、74HC と 74HCT の違いは入力段 MOSFET の特性のみということになります。

hc_hct
HC/HCT シリーズはバッファ付きなので、ほとんどの IC で同じCMOS インバータの入力段を持ちます(上図左側)。
この N-ch MOSFET と P-ch MOSFET の特性をうまく設定すると、VIN(th) をある程度自由に設定することができます。

74HC シリーズでは、この P-ch MOSFET と N-ch MOSFET の VGS(th) が同じ(コンプリメンタリ)になるように設計されています。
これにより、HC シリーズの VIN(th) は VDD の 50% となります。

一方、74HCT シリーズの入力段 N-ch MOSFET の VGS(th) は、P-ch より小さくなるように設計されます。
具体的には、VDD=5V のときに VIN(th) が TTL レベルとなるように作られています。

この VIN(th) のレベルは VDD に比例するので、
VIN(th) を TTL レベルに固定するために、
74HCT シリーズの電源電圧は 5V 専用となっているわけです。

入力段以外の特性は共通なので、HCT も HC と同様、広い電源電圧である程度動作させることは可能です。
AC 特性についても、入力段が非対称な分若干性能は落ちますが、他の部分は同一なので、HC シリーズとほとんど等価となります。
ただし、VGS-RDS 特性の通り、入力段 P-ch MOSFET のドライブが弱くなるので、低電圧で動作させる場合に特性が落ちることになります。

74HCT シリーズで注意が必要な点は他にもあり、一般に CMOS ロジックはスタティック動作で電流を消費しないのですが、HCT シリーズに TTL の H レベル信号を入力すると、mA オーダの消費電流が流れてしまいます
hc_hct_2
上図の通り、TTL の H レベル (worst で 2.4V) 入力において、入力段の FET は両方とも ON 状態となるので、H レベルのスタティックな入力でも貫通電流が流れます。
HCT では入力段がコンプリメンタリでなく、同程度の AC 特性を確保する都合上、貫通電流の値も HC シリーズより多くなっています。
もちろん CMOS レベルの DC 入力ならば、HCT  でもほとんど電力を消費しません。

TTL レベル入力時の 74HCT シリーズの消費電力はデータシートの ΔICC (TI, RCA) や IC (Toshiba) で規定されています。
74HCT00 を例にとると、室温での 1 入力ピンあたりの消費電流は下表の通りです。

CD74HCT00E: 0.1mA (typ), 0.36mA (max) [VI=VCC-2.1V], 1.8mA (max) [VI=2.4V, VCC=5.5V]
SN74HCT00N: 1.4mA (typ), 2.4mA (max) [VI=0.5/2.4V, VCC=5.5V]
MC74HCT00AN: 2.4mA (max) [VI=2.4V, VCC=5.5V]
TC74HCT00AP: 2.0mA (max) [VI=0.5/2.4V, VCC=5.5V]
74HCT00N (Philips): 0.15mA(typ), 0.675mA(max) [VI=VCC-2.1V]

ただし、各社で測定条件が少し異なる点に注意が必要です。

また、上記の値は FET のリニア動作による結果ですから、温度には非常にセンシティブのはずです。
1 ピンあたりで mA オーダですから、条件によっては 74HCT シリーズは TTL ロジック IC よりも多くの消費電流が必要になるかもしれません。

参考資料: TI 社アプリケーションノート
SN54/74HCT CMOS Logic Family Applications and Restrictions