自作カーブトレーサ[UDAS-01] その3 / DC-DC 特性の測定

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UDAS-01 は汎用カーブトレーサという位置づけです。メイン基板にプラグイン基板を接続することで、いろいろなデバイスの特性を測定できるように設計しています。

V-I コンバータ基板を作って、いくつかの昇圧型 DC-DC コンバータの負荷特性を測定してみました。以下にグラフを示します(Vin = 2.0V, Vout = 3.3V)。

(以下のグラフでは配線抵抗の影響があります。)

  • MAX879

MAX879 は MAXIM の古いワンチップ DC-DC コンバータです。一時期秋月電子で扱いがあったので、割とポピュラな IC だと思います。リチウムイオン電池の利用を念頭に置いた設計で、Vin > Vout でリニア動作をする特徴があります。一方バイポーラ Tr による同期整流など、設計が古いため効率はあまり良くありません。

ロードは 0.5A まで取れるようにしていますが、回路定数の都合上 Iout<20mA と >20mA でセンス抵抗を切り替えています。このためグラフ上ギャップがみられます。

  • BL8530-331

BL8530 は上海 Belling 社の PFM/PWM DC-DC コンバータです。同社ウェブページからは削除されてしまいましたが、実のところ TOREX 社 XC6372A の相当品のようです。データシートを見る限りオリジナルよりスペックが高いようですが…。私はこの IC を気に入っていて、3V 版をよく使用しています。グラフを見るとηがぎざぎざしていますが、負荷によって内部動作を切り替えているのかもしれません。

  • HT7733A

HT7733A は台湾 HOLTEK 社の PFM/PWM DC-DC コンバータです。秋月で手軽に手に入る (@¥40) のでこれも良く使用しますが、個人的には効率や安定性がもう一歩という印象です。グラフを見ると、高出力時になると効率は下がってしまうようです。電流容量の小さいノンA版も aitendo で購入できます。

  • 比較

上図は、とりあえず手元にあった上記 3 種を同一グラフにプロットたものです。高負荷時に MAX879 の効率が最も良くなっているのは同期整流のおかげでしょう。最近の MOSFET による同期整流の IC では 90% 以上の効率を期待できるので、そのうち比較したいと思っています。

  • MAX232 系

MAX232 に代表される RS-232C トランシーバ IC には正負電源のチャージポンプが内蔵されており、これを OPAMP の電源として使用できないかという試みは以前からなされています。しかし、このチャージポンプの特性図はほとんどの IC のデータシートで省略されており、確認するためには実測するしかありません。

max232i

上図は TI 社 MAX232I の出力特性です。- 側は無負荷で、+ 側を 20mA まで引いてみましたが、一般的な非安定チャージポンプの特性を示します。また、出力インピーダンスは Zout ~ 100 ohm と読めます。

sp232aep

同じ 232 の型番でも、メーカによって内部回路は異なります。上図は Sipex 社 SP232AEP の出力特性です。MAX232 との違いは一目瞭然で、SP232AEP では Iout<6mA で出力電圧がほぼ一定なので、安定化チャージポンプ回路となっているようです。また出力容量が小さく、Iout>6mA でシャットダウンされていることがわかります。これは容量不足ではなく、内蔵された過電流防止回路によるものと思います。

自作カーブトレーサ[UDAS-01]で半導体の特性を見る その2

前回からの変更点
・NPN/PNP Tr の測定に対応
・3 段階の測定レンジ・計測精度の向上
・IB-VBE 図の追加

以下、いくつかの Tr で測定したグラフを示します。

  • 2SC1815(GR)

IC-hFE

graph_2sc1815_01

上図は 3 段階 (IB<4uA, 70uA, 800uA) に分けてトレースしたものを重ねています。やはり IC>60 mA で hFE が落ち込んでいます。繰り返しになりますが、DCA75 のようなアナライザでは IC を 100mA まで取れないので、こういう特性はわかりません。

graph_2sc1815_02

2SC1815 のデータシートのように、同じグラフを log-log で表示したものです。低 IB から高 IB までしっかり計測できていることがわかります。さすがに、データシートに「直流電流増幅率の電流依存性が優れています」とあるように、IB<60mA では非常にフラットです。

IB-VBE

graph_2sc1815_03

上図は IB-VBE (エミッタ接地 VCE=5V) です。配線抵抗と Tc (パルス計測でないため) の影響があるので、高 IC となる範囲は少し誤差があると思います。

逆接続時 IC-hFE

graph_2sc1815_inv_01

バイポーラ Tr はエミッタとコレクタを逆にしても NPN あるいは PNP 構造となるので、幾許かの増幅作用が期待できます。エミッタとコレクタを逆に接続して直流電流増幅率をトレースしたのが上図で、センシング抵抗がレンジとマッチしないのでギザギザしていますが、hFE < 10 と極めて少ないながらも一応の増幅作用は確認できます。またこの増幅率も IC に非常に依存するものとなっています。この逆方向増幅率はほとんどの Tr のデータシートには規定されていないので、これは貴重なグラフといえます。

  • 2SA1015(Y)

2SC1815 のコンプリ、2SA1015 の Y ランクを見てみます。

IC-hFE

graph_2sa1015_02

上図は IC-hFE のグラフです。2SC1815 と同様に hFE は広い範囲でフラットですが、高 IC 時の落ち込みは少ないようです。Y ランクと GR ランクとの違いでしょうか。

IB-VBE

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2SC1815 と傾向が異なるように見えます。

  • 2SB270

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ゲルマニウムトランジスタの特性を見てみたいと思います。2SB270 は三洋の小信号用 PNP ゲルマニウム Tr です。ジャンクで手に入れたものなので、新品と比べて劣化があるかもしれません。なぜだかスリーブの色にバリエーションがありますが、今回は青色のものを使用しています。

IC-hFE (補正前)

graph_2sb270_no_correction

上図は上記とまったく同じ条件でトレースしたものですが、明らかに IC が小さい範囲でおかしく見えます。一般にゲルマニウム Tr は漏れ電流 (ここで影響するのは ICBO) がシリコン Tr と比較して数桁大きいので、この影響で見た目の hFE が大きく見えています。2SB270 のデータシートによると、ICBO < 12uA @ 6V となっています。今回のサンプルでは実測で ICBO = 3.2 uA でした。この ICBO の影響を補正したものが下図です。

IC-hFE(補正後)

graph_2sb270_01

graph_2sb270_02

Ge. Tr としては高めの hFE です。一方で hFE の IC 依存性が見られます。

IB-VBE

graph_2sb270_03

ゲルマニウム半導体の特徴として低い順方向電圧が挙げられます。当然ながら Ge. Tr の VBE の値も Si. Tr と比較して小さくなっています。

 

自作カーブトレーサ[UDAS-01]で半導体の特性を見る その1

[旧ブログからの移行記事]

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最近は USB 接続で動作する汎用のカーブトレーサを製作しています。
型番は UDAS-01 と名づけました。
これは USB Device Analyzer System の略称のつもりです。
未知のダイオードやトランジスタに対して、以下のようなグラフが取れます。
graph_1s2076a_01

このデバイスは HID デバイスの USB キーボードとして動作します。
Excel を起動した状態でスイッチを押すと、
自動的に取得したデータが打ち込まれていきます。

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(上面図)

写真に見るように、3ch の DAC と 16bit の ADC を搭載しています。
また、MCU には AVR の ATmega88V を使用しています。
上記写真右側のコネクタに V-I コンバータや V-F コンバータなどの
プラグインボードを接続して使用します。
汎用性を重視したつくりになっており、
半導体のみならずスイッチングレギュレータの特性など、
いろいろ計測することを想定しています。
スタンドアローンでも、15V 100mA 程度までグラフが引けます。

ちなみに、秋月で扱いのある半導体アナライザ (DCA-75) も
カーブトレーサ機能がありますが、100mA も電流を流せません。
もっとも、手軽さの点では市販品の方が優れていることは
いうまでもありません。

下記はいろいろな Tr の Ic-hFE 特性をグラフにしたものです。
(Vce = 3V (小信号) または 5V (中電力))

(1) 2SC1815
graph_2sc1815_01
2SC1815 は汎用の小信号 Tr です。
一般にバイポーラ Tr は定格付近で hFE が低下してしまいます。
今回使用した個体は GR ランクですが、hFE の落ち込みが顕著でした。
Ic<5mA で hFE がやや低いのは測定誤差によるもので、
基本的に Ic<50mA の領域で hFE はフラットです。

(2) 2SC2021
graph_2sc2021_01
2SC2021 は ROHM の定番汎用小信号 Tr です。
Ic 定格 100mA ですが、hFE の落ち込みは 2SC1815 ほど顕著ではありません。
一方、低 Ic の領域では、2SC1815 ほどフラットではないように見えます。

(3) 2SD468
graph_2sd468_01
2SD468 は日立の中電力 Tr です。(Ic=1A)
電源容量の都合で 180mA まで引きましたが、hFE は落ちません。

(4) 2SC827
graph_2sc827_01
2SC827 は富士通の SW 用 Tr です。 (Ic=0.5A)
2SC827

(5) 2SD2171S
graph_2sd2171_01
2SD2171 は ROHM の中電力 SW 用 スーパーβトランジスタです。
スーパーβトランジスタとは文字通り hFE の非常に高い Tr のことで、
グラフを見ての通り hFE の桁が違います。
この Tr が役立つところはえてして MOSFET の方が適格となるので、
意外と使いどころが難しいういやつです。

少 Ib 時の誤差が目立ちますので、これの解消が課題です。

USB バージョンを取得する (VC++)

PC に接続されている USB デバイスのバージョンがどう認識されているか
(ハイスピードの USB2.0 なのか、USB1.1 なのか…等)
知りたいことがあります。
これを取得する直接的な API はないようですが、
Microsoft の WinDDK に含まれる usbview サンプルが参考になります。

USB バージョンを調べるには、ルートハブからデバイスを走査していき、
DeviceIoControl 関数を使って USB_NODE_CONNECTION_INFORMATION_EX 構造体の情報を取得して、
デバイスディスクリプタの bcdUSB を見るというのが確実な方法だと思います。
bcdUSB には BCD で USB バージョンが入っています。

USB デバイスの VID と PID から USB バージョンを返す C++ のクラスをつくりました。
-> ダウンロード
CGetUSBVersion::GetUSBVersion(pid, vid) を呼び出すことで、
USB バージョンが BCD で帰ります。
(たとえば 2.0 なら 0x200)
取得失敗で負の値が帰ります。

なお GetRootHubName などの一部の関数は、WinDDK のサンプルから引用しています。

(メモ)I2C 絶縁回路


ADC などの I2C デバイスを絶縁させて動作させたい場合があります。
I2C は双方向バスなので、インタフェースに少し工夫が必要です。
上記はフォトカプラを使用した簡易的な I2C 絶縁回路で、
クロック 1kHz 程度なら問題なく動作します。
(なおクロックストレッチは対応せず)
回路定数は重要であり、フォトカプラの CTR も 100% 以上必要でしょう。
東芝 TLP521-GR が適当です。

TTL IC で自作する Atari Pong(4)

* ものは完成しているのですが、執筆が間に合っていません…

4 枚目はゲームコントロール回路、サウンド出力回路です。参考にした回路図には少し誤りがあるので、原本を参照したほうがよいかもしれません。右下の SW はゲーム開始ボタンです。

オリジナルの回路にはアンテナ入力があるのですが、役割がよくわかりません。この信号と /SRST 信号は Tr で組まれたラッチ回路の入力となっており、客が近づいたら ATTRACT モードになるという動作でいいのでしょうか?今回はこの部分も TTL IC に変更しています。また、オリジナルのオーディオ出力には DC 成分が残りますので、10uF でカップリングしています。

IC のデカップリングキャパシタですが、IC 1 列ごとに 3.3uF のタンタル C、フリップフロップに別途 0.1 uF のセラミック C を乗せています。少し足りないかとも思いましたが、この程度で十分のようです。ただし、使用した IC は半分以上 74LS なので、スタンダード 74N を使用するなら、もう少し多く載せたほうが良いかもしれません。

TTL IC で自作する Atari Pong(3)

3 枚目はボール位置のカウンタ、ボール速度の計算回路を載せています。
毎度美しくない配線ですが、このほうが後のデバッグに都合良いのです…

Pong の回路の面白いところは、上下左右に動くボールの「位置」を 74161 (同期式カウンタ…オリジナルでは Fairchild 9316 ですが) によって演算させていることです。どういう仕組みなのかというと、例えば次のフレームでのボールの縦位置は現在位置の ± N とするためには、ディスプレイの縦幅が 252 ラインなので、74161 のプリセットを 4+N (>0) とした modulo 256-(4+N) のカウンタ回路を構成します。このカウンタを水平同期信号でフリーランすると、カウンタがプリセットされるタイミングの V 位置 y(t) として y(t) = y(t-1)+N となるわけです。(説明を理解するより回路を見た方が早いでしょう)

ボールの垂直速度、水平速度は動的に変わってゆきます。垂直速度はボールがパドルに当たった位置によって変化するので、ボールの移動角 度が変わることになります。水平速度もゲームが進むにつれて高速になります。これらの工夫により、Pong というゲームは素朴ながらゲーム性が高くなっているわけです。

TTL IC で自作する Atari Pong(2)

基板 1 枚目

やはり 1 日がかりの作業となってしまいました。1 枚目の基板にはクロック(14.31818 MHz の 2 分周)を含む、映像タイミング生成回路を中心に乗せています。

ケーブルによる配線は基板の表面を這わせています。裏面を Point-Point で配線した方が表面からの見栄えが良く、配線スピードも速くなるのですが、配線ミスが見つけにくくなります。難しいところです。今回は表面での配線で統一しようと思います。

基板間の配線は L 型ピンヘッダを使用して、マザーボード経由の配線もしくはフラットケーブルによる配線を考えています。一昔前ならカードエッジコネクタでしょうが、今はそのほうがコスト大です。

このユニバーサル基板では、パターンの制約から、DIP IC を乗せて使うとあまりスペース効率が良くなりません。パターンカットすればこの 2-3 倍の IC を乗せることができるのですが、配線が窮屈になりすぎて不都合です。この点、サンハヤトの IC ユニバーサル基板は良くできているのですが、少し高価です…

TTL IC で自作する Atari Pong (1)

去年から ロジック IC をたくさん収集していましたが、そろそろ消費するフェーズかなと思います。冬休みということもあり、Atari のアーケードゲーム Pong を作ろうと考えました。

本稿の題名は「TTL IC で自作する Atari Pong」としましたが、オリジナルの Pong は 74 シリーズの汎用ロジックで組まれているので、サービスマニュアルの回路図を元に製作することにします。サービスマニュアルや回路図は archive.org 等で手に入りますが、このページ(Dan B’s Video Game Tech Page)に清書済みの PDF があるので、参考にさせてもらいます。

製作にあたって設けたルールは以下の通りです。

  • 使用する IC は 74N、74LS (+555) に限る
  • 配線には UEW を使わない
  • チップ部品を使わない

製作にはおおむね 60 個程度の TTL IC を使用しますが、ほとんど手持ちストックの中から揃えることができました。ただし、ストックの都合で、以下の IC は別の IC で代用することにします。

  • 7425 -> 7432 (+7404)
  • 7450 -> 74LS51
  • 74107 -> 7473, 74LS113
  • 9316 -> 74LS161
  • 7483 -> 74LS283

 
ストックから集めた IC

今回は以下のようなユニバーサル基板を調達しました。「新印 8.5CM*20CM」と書かれており、ロジック IC の実装に便利そうです。これ 1枚に 16 個程度の IC が楽に乗せられるので、複数枚を用いてモジュール構成とします。


IC 向けユニバーサル基板

以下次回。