74HC シリーズと 74HCT シリーズは、1980 年代に登場した Si ゲートの汎用 CMOS ロジックファミリです。
両シリーズの違いについては、データシートを見ても電気的特性の規定のみで、内部回路のどこが異なるのか記してある資料は少ないように思うので、ここに記しておきます。
まず電気的特性から見ると、両シリーズはロジックレベルが異なり、HC シリーズは入出力とも CMOS レベル (Vth ~ VDD/2)ですが、HCT シリーズは入力段を TTL レベル (Vth ~1.4V) に合わせています。
また、電源電圧範囲は HC が 2-6V、HCT が 5V ±10% と規定されています。(JEDEC 標準の場合)
さて、内部回路の違いを見ると、74HC と 74HCT の違いは入力段 MOSFET の特性のみということになります。
HC/HCT シリーズはバッファ付きなので、ほとんどの IC で同じCMOS インバータの入力段を持ちます(上図左側)。
この N-ch MOSFET と P-ch MOSFET の特性をうまく設定すると、VIN(th) をある程度自由に設定することができます。
74HC シリーズでは、この P-ch MOSFET と N-ch MOSFET の VGS(th) が同じ(コンプリメンタリ)になるように設計されています。
これにより、HC シリーズの VIN(th) は VDD の 50% となります。
一方、74HCT シリーズの入力段 N-ch MOSFET の VGS(th) は、P-ch より小さくなるように設計されます。
具体的には、VDD=5V のときに VIN(th) が TTL レベルとなるように作られています。
この VIN(th) のレベルは VDD に比例するので、
VIN(th) を TTL レベルに固定するために、
74HCT シリーズの電源電圧は 5V 専用となっているわけです。
入力段以外の特性は共通なので、HCT も HC と同様、広い電源電圧である程度動作させることは可能です。
AC 特性についても、入力段が非対称な分若干性能は落ちますが、他の部分は同一なので、HC シリーズとほとんど等価となります。
ただし、VGS-RDS 特性の通り、入力段 P-ch MOSFET のドライブが弱くなるので、低電圧で動作させる場合に特性が落ちることになります。
74HCT シリーズで注意が必要な点は他にもあり、一般に CMOS ロジックはスタティック動作で電流を消費しないのですが、HCT シリーズに TTL の H レベル信号を入力すると、mA オーダの消費電流が流れてしまいます。
上図の通り、TTL の H レベル (worst で 2.4V) 入力において、入力段の FET は両方とも ON 状態となるので、H レベルのスタティックな入力でも貫通電流が流れます。
HCT では入力段がコンプリメンタリでなく、同程度の AC 特性を確保する都合上、貫通電流の値も HC シリーズより多くなっています。
もちろん CMOS レベルの DC 入力ならば、HCT でもほとんど電力を消費しません。
TTL レベル入力時の 74HCT シリーズの消費電力はデータシートの ΔICC (TI, RCA) や IC (Toshiba) で規定されています。
74HCT00 を例にとると、室温での 1 入力ピンあたりの消費電流は下表の通りです。
CD74HCT00E: 0.1mA (typ), 0.36mA (max) [VI=VCC-2.1V], 1.8mA (max) [VI=2.4V, VCC=5.5V]
SN74HCT00N: 1.4mA (typ), 2.4mA (max) [VI=0.5/2.4V, VCC=5.5V]
MC74HCT00AN: 2.4mA (max) [VI=2.4V, VCC=5.5V]
TC74HCT00AP: 2.0mA (max) [VI=0.5/2.4V, VCC=5.5V]
74HCT00N (Philips): 0.15mA(typ), 0.675mA(max) [VI=VCC-2.1V]
ただし、各社で測定条件が少し異なる点に注意が必要です。
また、上記の値は FET のリニア動作による結果ですから、温度には非常にセンシティブのはずです。
1 ピンあたりで mA オーダですから、条件によっては 74HCT シリーズは TTL ロジック IC よりも多くの消費電流が必要になるかもしれません。
参考資料: TI 社アプリケーションノート
SN54/74HCT CMOS Logic Family Applications and Restrictions